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お客様からのお問合せで、「税務調査が入るので税理士を探している」という声をよく頂きます。
経営者にとって税務調査といわれると、恐いイメージがあると思います。
今回は、税務調査とはいったいどういった調査なのか? どういった形で調査されるのか?
など、税務調査について、立野晴朗税理士にインタビューしてきました。
税理士・公認会計士 立野 晴朗 | ||
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昭和39年 | 東京都出身 |
昭和60年 | 全国最年少にて公認会計士第二次試験合格。会計士補として監査法人中央会計事務所に勤務。上場会社等に対する会計監査業務に従事。 | |
平成元年 | 24歳で慶應義塾大学大学院理工学研究科(管理工学専攻)在学中に立野経営会計事務所を独立開業。 |
名古屋税理士紹介センター:
立野先生、本日はよろしくお願い致します。
立野先生:
こちらこそよろしくお願い致します。
名古屋税理士紹介センター:
ではさっそくお聞きしていきたいと思います。
まず率直に税務調査とはいったいどういうものなのでしょうか?
立野先生:
はい。まず税務調査は、任意調査と強制調査とに大きく分かれます。
強制調査とは、国税局の査察部が裁判所の許可を得て行う、いわゆる「マルサ」と呼ばれるものです。
脱税額が多額であるとか、悪質な脱税の容疑がある場合に対象となるものですが、一般的な税務調査は、ほとんどが任意調査ですので、ここでは任意調査についてお話ししていきます。
税務調査と一口でいっても、いくつかの種類があります。
税務調査の規模という面では、着眼調査といわれる半日程度の簡易なものから、特別調査といわれる長期にわたるものもあります。最近は「組調査」といって複数人で来ることが多く、その場合には会社側も複数人数で対応するほうがよいと思います。
税務調査の種類には次のようなものがあります。
世間的に税務調査というと、3番目の、まず電話がかかってきて税務署職員が会社に来て、2日程度いろいろと調べられるもの、つまり「一般調査」をイメージするようです。
しかし、税務調査にもいろんな段階の調査があるのですね。
そして、それぞれその調査が何件行われたかは、国税庁から発表されていますが、毎年調査の件数は同じぐらいになります。
極端にどの種類の調査が多い、少ないということはないです。申告件数は法人で年間270万件程度あり、このうち調査件数は年間13万件程度です。
また所得税では年間2000万件強の申告が行われ、このうち調査件数は年間80万件弱ですので、ごく大雑把に言いますと、年間100万件弱の税務調査が行われております。
国税庁の職員数は事務局を含めてですが5万人台ですので、調査官で平均しますと1人当たり年間30~50件位は調査を行っているそうです。
そして、年間100万件弱の調査のうち、3分の1弱が簡易な接触つまり電話調査、残り3分の2弱が着眼調査で、いわゆる一般調査は、7万件程度と言われております。
要するにほとんどは電話調査だと思います。
個人の方の医療控除や所得税の計算上の単純な申告ミスが圧倒的に多いですね。これらは税務署の無料相談を活用するのがベストだと思います。
名古屋税理士紹介センター:
なるほど。税務調査にはいくつか種類があったのですね。知らなかったです。
では、具体的に、税務調査はどういったことをされるのでしょうか?
立野先生:
一般調査では、税務調査でどういったことをされるのかと言いますと、端的に言えば税務署の職員が会社に来て、課税所得の適正性を調査しにくるということです。
簡単に言うと、社長と面談し申告情報を確認しに来るということです。
名古屋税理士紹介センター:
簡単に言うと税金を取りに来るということですか?
立野先生:
税金を取りに来るというより、きちんと税金を申告しているかどうかを確認・指導をしに来るということですね(笑)。
しかし、税務署も職員を評価しなければならないようです。
職員を評価するためにも、ただ会社に指導しているという報告だけでは評価が出来ないですよね。
職員は調査件数と金額の両方の軸で評価されていますので、やはり評価を上げるためにも、申告の間違いや不正を見つけないといけないようです。
また脱税・不正をやっている会社は、重加算税という重たい罰金を科せられます。
調査員はこういった会社を見つけて調査し、不正を発見すると、評価は何倍にも上がると言われていますので、どうにかして不正をしている会社を見つけてやろうと思っていると思われます。
名古屋税理士紹介センター:
確かに不正はダメですね。
税務調査はどういった段階を踏んで調査されるのでしょうか?
立野先生:
通常は、実施日の1~2週間前に税務署から関与税理士に対して電話で連絡があります。
ただし、事前通知をしない場合もありますね。地域によって様々だと思います。
東京での調査は、事前通知により比較的紳士的に行われているように思いますが、地方に行けばいくほど、少々びっくりするようなこともあるというのが実感です。
名古屋税理士紹介センター:
それはたとえば、ある日突然急に調査官がやってくるということですか?
立野先生:
はい、そういうこともありますね。
まず、たとえば顧問税理士が付いていない場合は、無予告で突然調査官が来て、納税者の方たちに迫るようなこともあるようです。
顧問税理士が付いている場合には、基本的には税務代理をしている関与税理士に事前通知をしてからスケジュールを調整することが通常ですが。
名古屋税理士紹介センター:
顧問税理士が付いていても、突然無予告で調査に来ることがあるんですか?
立野先生:
はい、残念ながらあります。
この場合は特徴があって、現金商売の場合です。
現金商売の場合は、ある時点・その日を調べないと分からないので、急に来ることがあるのですね。
現金商売の場合は、常に現金がお店や会社のレジや金庫にあります。例えばその日の売上を個人的なことや事業に関係のないものに売上金を流用しているのではないか?
もし流用しているのであれば、それに対して税金を徴収しなければならない、といった観点から調べにきます。
現金残高が「ぴったり」合っていないという事実をもって、帳簿全体の信憑性がきわめて低いと言えるというロジックによって、それを取っ掛かりにして調査を進めるわけです。
それは建前でもあるのですが、現金売上が合っていないという切り口から、売上が合っていないなら、経費も人件費も、というように調べていくわけですね。
さらには、事前通知を行うと的確な調査を行う上で支障となる事案や、調査を円滑に行う事が困難と考えられる事案について事前通知を実施しない場合がある、という国税局長の公式答弁を拡大解釈して、無通知・無予告で調査できると考えている調査官も多く、それでトラブルになる事例が見受けられるのが現状なのです。
名古屋税理士紹介センター:
んー恐いですね・・・。
急に来たときに断ることはできないのでしょうか?
立野先生:
できますね。本当にそのとき現金の管理責任者がその場にいないとか、業務上の支障が生じるような場合には、日時変更してもらうことが可能です。
ただし納税者には受忍義務というものがありますから、税務調査そのものを完全に拒絶することは当然ながらできません。
またあまり抵抗し過ぎてしまうと、調査員は逆に何か見られてはいけない事があるからではないかと思うようです。
税務調査官は、経験数が全然違います。
私も法人の税務調査は20年間で200件以上対応していますが、調査官は年間で30~50件やっています、それが20年間だとすると、600件~1000件ぐらい対応しているわけです。
そうなると、もう何かごまかしている人や、そういったときの対処には慣れています。
なので、現金商売の方はいつ税務調査が来るか分からないという、意識を持たなければいけません。
あと、在庫が多い業種も、税理士が付いていても突然来る場合があります。
在庫が多い会社は、在庫をごまかしているのではないかという現物チェックをしにくるのですね。この場合もその時点の在庫を調べないといけないですから。
名古屋税理士紹介センター:
突然調査が来ると会社側はパニックになってしまいそうですね。
そのため、日頃から来るという意識を持つことが大事ということですね。
では実際税務署が来やすい業種や会社はあるのでしょうか?
立野先生:
良い質問ですね。
毎年国税庁から重点業種というものが発表されます。それは脱税額ワースト10というようなものを参考にしたりして、いろいろな要因から決められるのですね。
例えば業界全体として景気は良いはずなのに、利益がほとんど出ていない会社など。 こういう会社は、利益がなぜ出ていないのかということで怪しまれます。
次に違う軸として、急に利益が出たり、損失がでたりという、V字回復や逆Ⅴ字降下などが頻繁に起こる会社は怪しまれます。
税務署をはじめとする公務員はどちらかというと安定志向の体質ですので、やはり安定的に利益が上がっているという会社を好みますね。ジェットコースターのような会社は怪しまれます。
あと地域による違いです。
地域の税務署の管轄で、それぞれの業種・売上などを平均してグラフ化しているのです。
ほとんどの会社はグラフの枠の中に入っているのに、そのグラフから飛び出している会社などが出てきます。
いわいる異常値が発見される会社ですね。こういった会社も怪しまれますね。
名古屋税理士紹介センター:
そうなんですね、いろいろな軸で怪しい会社を調べているのですね。
では次に調査に入りやすい期間というのは決まっているのでしょうか?
立野先生:
これまた良い質問ですね。
大体税務署は7月初旬に人事異動がありますし、8月はお盆や休暇などがあるので調査は入りにくい傾向があると思います。
日本の企業は3月決算・5月申告が多く、その提出された申告書を税務署のデータシステムに入力する作業が1~3ヶ月ぐらいかかります。
それから直近のファイルなどを調べる、という流れになりますね。
そうすると、大体3月決算の場合は9月~11月頃に多いということになります。
こういったサイクルを考えると、11月12月などを決算月にすると、調査は入りにくいのでは、といわれています。確かではないですが、俗説的にという話です。
また、お盆明け~12月というのが、調査官の評価にすごく直結してくる期間になるので、9月10月の調査というのは、すごく気合が入っていると思われます。
4月以降の調査というのは、調査件数が足りない、ノルマが達成できていないから、調査をするといったこともあるようです。
したがって、調査の時期によっても、調査官の気合の入り方が違うと思います。
名古屋税理士紹介センター:
時期によっても違うのですね。
では実際税務調査で税理士さんはどういった役割を果たしてくれるのでしょうか?
立野先生:
はい。
私は事前・事中・事後という考え方をします。
●事前
経営者の中で一番悪いパターンは、経営者が自分は税務や、法律はまったくわからないし、興味もない。税理士にすべて任せているというパターンです。
会社を経営する上で、会社法上、日本で会社を設立登記した以上は、法律によって会社(法人格)としてその存在を認められています。
したがって経営者は会社法や法人税法・消費税法といった法律を学んでいくという意思、認識を持たなければなりません。
税務調査でも、調査官はこれら税法・会社法に基づいて話をしてきますので、知識がなく内容がわからなければ、ただ感情的に反発するだけになってしまいます。
経営者が感情的になってしまったら、もはやビジネスコミュニケーションは成立しません。
そうなると、税理士とうまく関係を築いていけないと私は考えます。
あとは調査が入るとわかったら、事前に顧問税理士と打ち合わせをする必要があります。
その際どこに弱点・不安を抱えているか、どのような攻め方をしてくる可能性があるのかを経営者に理解してもらうことです。
そうでなければ、1円でもお金を持っていかれるとなんでだ!と、悔しくなってしまいますから。事前の準備段階では、経営者に本当の意味の経営者になってもらうことが何よりも重要です。
●事中(税務調査中)
法人に限って言うと、勝負は最初の10分~30分です!!
ここで調査官は何を見ようとしているかというと3つです。
ここで一番重要なのが、経営者の人間性です。
調査官は経営者がこの人は不正をしているか?税金は払いたくないと思っているか?税務調査を恐いと思っているかどうか?などを判断してきます。
不正やごまかしなどせずにまじめに仕事をしている人は、本当に仕事の邪魔だと思っている人もいます。
自信がない、やましいことがある人は、とにかく一方的にベラベラしゃべってしまい「場」を支配しようという弱さを露呈してしまうのですね。
そうすると調査官も百戦錬磨のプロですから、うまくいろいろとしゃべらされてしまうのですね。そして必ずボロを出して、馬脚を現す結果が待っています。
あと税理士のクオリティーも重要です。
税務調査だからといって、調査官になんでもかんでも食って掛かる税理士は、一見会社側に立っているように見えますが、実はダメ税理士ですね。
やはり、できる税理士はしっかりと、調査官と経営者の間に立って、双方の意見をしっかり聞いて翻訳し、税理士として調査に協力しますよという方が、調査全体では会社にとって良い結果を生みます。
会社のために調査官に抵抗することも、もちろん重要なのです。
しかし、戦術論として、調査は当然に人間対人間の営みです。
なので、しっかりと税理士が調査官に興味を持ち、経営者に対してもダメなものはダメと言う姿勢を持たなければ、全体として悪い方向に行ってしまいます。
税理士はこういった人間対人間の駆け引きを、しっかりできないとダメです。
ステップとしては
税理士がこれをしっかりできるかどうかで、調査の80%は決まってしまいます。
名古屋税理士紹介センター:
ということは最初の30分が非常に重要ということですね。
立野先生:
優秀な調査官なら最初の10分で判断してしまいますね。若い調査官で午前一杯かかる方もいますが。
あともうひとつポイントは、重加算税に絡んでくるのです。
最初の10分で、調査をして仮に間違いがあったとしても、経営者は不正・仮装・隠蔽の意思は持っていないということを税理士が調査官にいかに伝えるかということです。
会社にある帳簿や通帳など会計情報はもう、申告してしまっているものですから、大きく変更のしようがありません。
なので、今言ったようなことをきちんと、調査官に伝えておけば、仮に間違いがあったとしても、これは事務的なミスだったのだなと、人間として扱ってくれます。
ですから一番重要なのは税務官にしっかり人間性を伝えるということです。
名古屋税理士紹介センター:
調査というのは、人間対人間が行うということですね。調査では帳簿などはすべて調べられるのですか?
立野先生:
いえ、すべてを調べるということはほとんどないですね。ある程度調査官も怪しい部分を調べてきています。
調査ではその怪しい部分を調べにくるという形が大半です。
名古屋税理士紹介センター:
では顧問税理士がついていない会社は、調査の場合どうなりますでしょうか?
立野先生:
顧問税理士がいない場合は3つのタイプに分かれます。
言いなりタイプはその言葉の通り、調査官の言いなりにするタイプです。
このタイプの方は調査官からすれば、言い方は悪いですが、なんとでも出来てしまいますね。ただ調査官も人間ですので、やはり素直でまじめにやったけど間違ったのだなと思います。
なので、ある程度のところでもう勘弁してあげようと思うこともあるわけです。もちろん、調査権限を逸脱されるリスクもある点は要注意ですが。
次に自己流タイプです。
自己流タイプの方は、自分は頭が良いと思い、税理士がいなくても、自分でなんとかできると思う方です。このタイプの方は調査官と喧嘩してしまいますね。
こうなってしまうと、調査官との傷も深くなってしまって、税理士事務所に駆け込んでくるケースも多いのです。
しかし、性格上自分の思うようにしたい方なので、税理士ともバッティングしてしまう方が多いです。
次に例外タイプです。
この方はそもそも申告も何もしなかったり、資料を捨ててしまったりするような方です。
こういった会社は逆に税務署はやりにくいタイプですね。申告も何もしないと調べようがないですから。
しかし、すべてがバレた時はすごいことになりますが・・・。
名古屋税理士紹介センター:
確かに、申告しないと税務署も調べようがないですね。
顧問先ではない会社の調査立会いをしても、その会社にとっては意味があるのでしょうか?
立野先生:
そうですね、意味はあると思います。
やはり税理士が調査立会していると、調査官も昔の地頭や代官のような変なことはできませんから。(笑)
名古屋税理士紹介センター:
そうですね、やはり税理士には立ち会ってもらった方が良いということですね。
税務調査に対して事前に出来る対策はありますか?
立野先生:
そうですね、まずは日々の経理処理をしっかり行うということが一番ですね。
事前対策には、自主的な対策と形式的な対策があると思っています。
自主的な対策においては、やはり会社法が重要になります。会計処理の方法や、契約書をどう作るかと、株主総会はどうしなければならないかが定められています。
そういった事を経営者が日頃から学ぶ意識を持つことです。あとイレギュラーな取引などが起きたとき、自分でしっかり調べるということです。
プラス税理士などにも相談して、自分の知識を増やしていく。
そうすれば調査の時でも、なぜダメなのかがしっかり理解できます。
こういった勉強を日頃からするということです。あくまでも、会計が主たるベースになり、税務は従たる関係にあるのです。
形式的な対策は、書類上の不備などです。
例えば疎明資料の不足や印紙の貼り忘れなどがありますね。こういった小さな部分も重要になります。
ある程度起こりえる形式的なミスは経営者自身が、しっかりと覚えておくということです。
このようなことを日頃から行っていれば、調査のときでも自信を持って対応できると思います。
名古屋税理士紹介センター:
日頃の積み重ねが大切だということですね。
今回税務調査について、立野先生にいろいろとお聞きしてきましたが、全体を通して新たな発見として、
税務調査は「人対人」というのが大きなポイントということですね。
すごく勉強になりました。
立野先生:
そうですね、「人対人」ということが税務調査では大きなポイントです。
是非参考にして頂ければと思います。
名古屋税理士紹介センター:
立野先生本日はお忙しい中ありがとうございました。
立野先生:
こちらこそありがとうございました。
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